本を読むきっかけ
『自分という木の育て方』というこの本を手にしたのは、というタイトルに惹かれたからです。自分を木と見立てて、その木を育てようという著者の感覚が、自分ととても合っている気がしたのです。
帯には「カフェと暮らし」の第一人者による強く、しなやかに生きるためのヒント集と書かれています。
私はカフェも好き。全然できていないけれど、丁寧な暮らしにも近づきたいと思っています。
「強く、しなやかに」もぐっとくる言葉。
ですから、この本を見つけたとき、巡り逢うべき本に出会えた、そんな気分でした。
私は普段本を買うとき、前書き、目次をじっくり見て、中を少し読んで、買うかどうか決めています。でも、この本は中を見て確かめることもせず、本のタイトル、装丁、帯だけで買うことを決めました。
本を読んだ感想
1章のタイトルが「場所と出会い、種をまく」
大人になったら、どこで、何をして生きるかは、自分自身で決められる。
第1章 場所と出会い、種をまく 場所・人との出会い 冒頭部分
自分が1本の木だとしたら、どんな場所で育つのが気持ちいいのか。
どんな場所で、どんな光や風の中で、生きていきたいのか……。
自分を木にたとえると、ちょっと引いた目で自分の人生を見られる気がします。
良い場所を見つけて、そこに種をまくことは、何歳からでも始められるのです。
私の名前は種マキです。本名ではありません。
この名前をTwitterでつけたのはこの本に出会う3ヶ月前。
自分が自分自身の種をまこう。そう思ってつけた名前です。自分の感性に訴えかける本と直観した本に、自分の思いと重なる言葉がある。これは本当に嬉しいことでした。
著者の石村さんの文章は明瞭で暖かくて、きっぱりしています。
とても丁寧に暮らし、ご主人(本当は私は男性を主人という主従関係的な言い方は好きではないのですが丁寧語として使います)やお客様、スタッフやお店に関する方々への深い愛情を感じました。
普段の日の暮らし、人との繋がり、自然、季節感を大切にされています。忙しい時も自分でキッチンに立ち、家事を合理的にきちんとする。季節の野菜で1品作る。そして決して無理をされている様子ではなく、家事も楽しんでされている。
料理や掃除の時短を具体的にどうやっているかも本の中で触れられています。しかし、この本の魅力はただ合理的に短時間で行うコツが書かれているからではありません。時間を生み出すことで、家族や友人、仕事仲間との心のつながりをどう作ってきたか、どのような心遣いをして日々過ごしていらっしゃるかを垣間見ることで、読者の心が潤ってくるようなところ、自分自身も大切にしたいと思えるようになるところです。
丁寧に暮らしを心がけている方の文章というのは、こんなに言葉が豊かで美しいのかと、読みながら心が洗われていくようでした。
この本の中で印象的な言葉があります。
「好きなことをしていくための“7割3割”の法則」です。
「7割はやっぱり、食べていくための仕事をしたほうがいい。『こんなものを作るのは嫌』と最初から言っていてはいけない気がする。 まずは仕事の7割を売れるものを作ることにあてる。収入を得て、ちゃんと生活できるようにならないと次に進めないのです。そして残りの3割で、本当に作りたいものを作って、いつか作品展ができるようになるための練習をしておくといい」
第2章 木を育てる 好きなことをしてための“7割3割”の法則 71ページ
この7割3割、の法則は、なにも手仕事の世界に限ったことではないと思います。
(中略)
まずは、たくさんのひとに受け入れられることを考える。でもそれだけでは、店も作品もひとも豊かに育っていかない。遊びや新しさや個性は必要です。必要だけれど、どんなにすてきな花を咲かせる木だとしても、その前に枯れてしまえば意味がない。
ひとに求められてこそ、です。まずは木を育てることが先。この順番は大切です。
7割は売れるもののために作り、それで収入を得る。3割は本当に自分が作りたいものを作る。
人に求められて木を育ててから花を咲かせる、その順番が大事というのは、理想を追うことと現実の折り合いをどうつけていくか、自分をどう伸ばすかという明瞭な答えにとても共感しました。
幾多の経験をされて、店の経営と人材育成のバランス感覚に長けた石村さんだからこその、柔らかいけれど説得力のある言葉だと思いました。
この本があまりにも魅力的で、本を読んですぐに奈良の「くるみの木」に行くことに決め、2,3週間後にはお店に行きました。2019年12月、コロナウイルスが日本に入る前のことです。著者の石村由紀子さんにお会いできるわけではないけれど、思いを込めて作っているものを自分が実際に感じてみたい、そんなふうに感じてアクションを起こすほど影響のあった本です。
この本は最初に読んでから、何度も読み返しています。写真もイラストも文章も好きで、自分に栄養をもらうため、自分の木を育てるために自然と何度も手にとりたくなる本なのです。私の知人も「自分という木の育て方」というこの本は、1回だけ読む本ではなく、時間を置いて何度も繰り返して読む本だねと同じことを感じていました。